数年前のことになりますが、自宅のデスクの引き出しを整理していたとき、奥の方から一台の古いスマートフォンが出てきました。 画面には細かな傷が入り、バッテリーも劣化して膨らみかけた、かつての私の相棒(Android端末)です。 電源を入れてみると、懐かしい起動音とともに、当時の壁紙が表示されました。
これを見た瞬間、ある「苦い記憶」が蘇りました。 まだ幼かった娘が、「みんな持ってるから私も欲しい!」と泣いてせがんだ日のことです。 当時、私は「まだ早い」と一蹴し、妥協案としてこの古い端末を「Wi-Fi専用機(兼・目覚まし時計)」として貸し与えました。 「外には持ち出さない」「アプリは勝手に入れない」 そんな鉄の掟とともに渡したはずが、結果としてそれが、我が家のデジタル統制が崩れ去る「蟻の一穴」となったのです。
昨日、NTTドコモのモバイル社会研究所から発表された最新の調査データを見て、あの日、私が娘の熱意に押し切られた理由が、単なる親バカではなく、時代の必然だったことを思い知らされました。
小学5年生で「過半数」がスマホを持つ時代
2025年11月に実施されたこの調査によると、現代の子供たちのスマホ事情は、私たちが想像するよりも遥かに「早熟」です。
まず衝撃を受けたのが、所有率の推移です。 データによると、自分専用のスマートフォンを持っている割合は、小学5年生でついに51%に達しています。 クラスの半分以上がスマホユーザー。 つまり、小学5年生の教室で「スマホ持ってる人?」と聞けば、半数以上の手が挙がるわけです。 かつては「中学入学祝い」がスマホデビューの定番でしたが、今やそれは「遅い」部類に入りつつあります。 実際、中学1年生(12~13歳)の段階では、所有率は85%に達しており、持っていない子の方が圧倒的少数派になっています。
「みんな持ってるもん!」 あの日、娘が叫んだ言葉は、わがままではなく、統計的に正しい「事実」だったのです。
女子の平均所有年齢は「9.9歳」へ
さらに驚くべきは、スマホを持ち始める年齢の低年齢化です。 スマホ所有開始の平均年齢は、全体で10.2歳。 これを男女別に見ると、男子が10.4歳であるのに対し、女子はなんと9.9歳となりました。
これは同研究所の調査開始以来、初めて10歳を下回った記録だそうです。 「10歳の壁」とも言えるラインを、女子たちは軽々と飛び越えていきました。 コミュニケーションツールとしてのスマホの需要が、女子の方がより早期に高まる傾向があるのかもしれません。 LINEやSNSでのグループ作りが、小学校中学年から始まっている現実が透けて見えます。
「お下がり」が加速させる低年齢化
なぜこれほど急速に普及しているのでしょうか。 グラフを見ると、最も多いデビュー年齢は依然として「12歳(中学入学)」ですが、その割合は5年前(2020年)と比較して低下しています。 その代わりに増えているのが、8歳(小学2~3年生)でのデビューです。
ここで思い出されるのが、冒頭の私の「古いAndroid」です。 親としては、新品の高いiPhoneを買い与えるのは躊躇します。 しかし、自分が機種変更して余った古いAndroid端末なら、「まあ、GPS代わりになるし」「連絡用ならいいか」と、ハードルが一気に下がります。 8歳での所有増の背景には、こうした親側の「お下がり端末」の活用や、塾通いなどのセキュリティニーズ、そして「動画視聴用」としての利用が影響しているのではないでしょうか。
結論:古い端末は「トロイの木馬」だった
さて、冒頭の引き出しから出てきたスマホの話に戻りましょう。
あの日、私が「Wi-Fi専用機」として娘に渡した古い端末。 最初は約束通り、家の中だけでYouTubeを見る程度でした。 しかし、すぐに「友達と連絡を取りたい」とLINEを懇願され、次に「塾の帰りに連絡したい」とSIMカードを要求され、気づけばそれは完全な「自分専用スマホ」へと進化していました。
私が引き出しの奥に封印していたこの端末は、娘にとってはデジタル世界への扉を開く鍵であり、親にとっては管理社会への敗北を意味する「トロイの木馬」だったのです。 女子の平均9.9歳というデータを見て、私の敗北は歴史的な必然だったのだと、妙に納得してしまいました。
そして今、横では下の息子が、私の最新のAndroidタブレットを虎視眈々と狙っています。 「パパ、それ古くなったら僕にちょうだい」 ……歴史は繰り返す。 次なる防衛戦(ペアレンタルコントロールの設定)に向け、私は静かにGoogleファミリーリンクのアプリを開きました。
皆さんも、機種変更後の「古い端末」の行方には、くれぐれもご注意を。 それは単なる電子機器ではなく、子供の成長を一気に加速させる劇薬かもしれません。
それでは、行ってきます。