【電子マネー全史・完結編】人類は「進化」を止めたのか?QRコードという名の「退化」と、私が愛した「iD」の喪失について。

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おはようございます。kinystaです。

今日は2026年1月20日、火曜日。3日間にわたってお届けしてきた「電子マネー全史」も、いよいよ完結編です。

前回の【中編】では、おサイフケータイが築き上げた「タッチするだけ」の楽園が、規格の乱立によって崩壊した「暗黒時代」を描きました。しかし、その先に待っていたのは、楽園の復活ではありませんでした。2018年頃から爆発的に普及した「黒船」。それは、私たちが「過去の遺物」だと思っていた技術を引っ提げてやってきました。

QRコード。

今日は、世間がPayPay祭りで浮かれていた時、私が何をしていたか。そして、私が愛した「最高の決済手段」がサービス終了で消えてしまった悲しみと、現在の私の「歪んだ決済事情」について、語り尽くします。

これは歴史の解説ではありません。失われた「タッチ決済」への鎮魂歌であり、スマホ画面を必死にかざす現代社会へのアンチテーゼです。

第9章:私は「100億円」を拒絶した(2018年)

2018年12月。ソフトバンクとヤフーが仕掛けた「PayPay(ペイペイ)」のキャンペーンは、日本中を狂乱の渦に巻き込みました。「100億円あげちゃうキャンペーン」。20%還元という強烈な餌に釣られ、家電量販店には長蛇の列ができました。

しかし、私はその列には並びませんでした。世間が「ペイペイ!」と叫んでいるのを横目に、私は頑なにAndroidスマホの背中(FeliCaマーク)をレジにかざし続けました。なぜなら、レジ前で繰り広げられる光景があまりにも異様で、そして「後退」しているように見えたからです。

レジ前の「儀式」への絶望

私はビックカメラのレジ付近で、人々を観察していました。みんな、スマホの画面を必死に操作しているのです。ロックを解除し、アプリを探し、起動し、バーコードを表示させる。店員さんがそれを読み取る。あるいは、客が店頭のQRコードをカメラで読み取り、金額を入力し、店員に見せて確認をもらい、「ペイペイ!」という決済音を聞く。

「……なんだ、この儀式は?」

私は愕然としました。10年以上前、私たちは「おサイフケータイ」で何を実現したのでしょうか。ポケットから携帯を取り出し、画面も見ずに、改札やレジにかざすだけ。「ピピッ」0.1秒。それが未来だったはずです。

なぜ、2018年にもなって、私たちはレジの前でスマホをポチポチと操作し、カメラを起動し、ピントを合わせ、通信の読み込みを待たなければならないのでしょうか。これは「進化」ではありません。明らかな「退化」です。F1カーから降りて、わざわざ手押しの荷車に乗り換えたようなものです。しかし、100億円という強烈な「撒き餌」の前に、その不便さは黙殺されました。人々は「お得」という名の麻薬に酔いしれ、UX(ユーザー体験)の退化を受け入れてしまったのです。

私はその時、心に誓いました。「あんな面倒くさいもの、誰が使うか」私は100億円の恩恵を捨ててでも、0.1秒の快適さを選ぶ。そう決めて、PayPayアプリを入れることを頑なに拒否しました。

QRコードを使う人が少なくなれば、世の中の主流はタッチ決済になると思っていたのです。

なぜQRは「退化」なのか

改めて、その「めんどくささ」を分解してみましょう。

【Suica / iD / QUICPayの場合】

  1. スマホを取り出す。
  2. リーダーにかざす。
  3. 完了。(画面OFFでもOK、アプリ起動不要)所要時間:約1秒。ストレス:ゼロ。

【QRコード決済の場合】

  1. スマホを取り出す。
  2. 画面ロックを解除する。(マスクや濡れた指でFace ID/指紋認証が失敗するとイライラ)
  3. ホーム画面から決済アプリを探す。(アイコンが増えすぎて見つからない)
  4. アプリを起動する。
  5. 起動ロゴを見つめる。(数秒のロス)
  6. 「アップデートがあります」と表示される。(絶望)
  7. バーコードが表示されるのを待つ。(電波が悪いと表示されない)
  8. 店員に見せてスキャンしてもらう。
  9. 完了。所要時間:早くて10秒、手間取ると30秒以上。ストレス:特大。

この工程の多さ。なぜ、世の中の人はこの「めんどくささ」に気づかないのでしょうか?それとも、皆さんはFeliCaの「タッチ決済」のあの一瞬で終わる快感を忘れてしまったのでしょうか?あるいは、iPhoneユーザーが多かったために、「おサイフケータイ」の真髄を知らないまま、「スマホで払える=すごい!」と誤認してしまったのでしょうか。

私には、レジ前でアプリが立ち上がらずに焦っている人の背中が、現代社会の悲劇そのものに見えます。「タッチ決済」という最適解がすでにあるのに、わざわざ手間のかかる方法を「最新」ともてはやす。これは、技術が人を幸せにしなかった稀有な例です。

なぜ退化した技術が勝ったのか

理由はシンプルで、「店側の都合」です。FeliCaの読み取り機は高い。導入にコストがかかる。一方、QRコードなら、紙に印刷したコードを置くだけでいい。初期費用ゼロ。PayPayはこの「店舗側の導入ハードルの低さ」を武器に、これまでクレジットカードすら使えなかった個人商店や居酒屋を一気にキャッシュレス化しました。

ビジネス戦略としては天才的です。しかし、そのツケを払わされているのは、毎回スマホを操作させられる私たちユーザーです。「店が楽をするために、客が手間を負担する」これがQR決済の本質です。私は、この構造がどうしても好きになれません。

第10章:私が愛した「LINE Pay(iD)」の死

そんな「タッチ決済原理主義者」の私が、かつて愛用していた最強のツールがありました。「LINE Pay」です。

「えっ、LINE PayってQRじゃないの?」と思った方。ノンノン。AndroidユーザーにとってのLINE Payは、違いました。Google Payに登録することで、「iD(アイディ)」として使えたのです。

これが完璧でした。

  1. タッチで払える(iD):アプリ起動不要。かざすだけ。
  2. プリペイド(チャージ)式:ここが重要。

私は、クレジットカードの「後払い」があまり好きではありません。あればあるだけ使ってしまう、意思の弱い人間だからです。「チャージした分しか使えない」という制約こそが、私のお財布の紐を締める唯一の安全装置なのです。

「チャージ式で、iDでタッチ決済ができる」この条件を満たすLINE Payは、私にとっての理想郷でした。

しかし、悲劇は訪れます。ご存知の通り、LINE Payは日本国内でのサービスを終了しました(2025年4月までに順次終了)。私の理想郷は、企業の統廃合という波に飲まれ、消滅したのです。あの時、私が感じた喪失感は、失恋以上のものでした。

第11章:現在の妥協、そして「仕方なく」入れたPayPay

LINE Payを失った私が、今どうしているか。2026年現在、私は「d払い(iD)」という避難所に身を寄せています。

「d払い」も基本はQR決済アプリですが、Android版には「タッチ決済(iD)」機能がついています。これを設定することで、なんとか「かざして決済」の尊厳を保っています。あるいは、最近普及してきた「クレジットカードのタッチ決済」。これも便利ですが、やはり「後払い」になるのが玉に瑕です。使いすぎないよう、利用明細を見るたびに震えています。

屈辱のPayPay導入

そして、あれほど拒絶していたPayPayですが……。実は今、私のスマホに入っています。

導入理由は、「敗北」です。ある日、友人と割り勘をする時に言われました。「PayPayで送るわ。えっ、やってないの?じゃあ受け取れないじゃん」

……くっ。「送金」という人質を取られては、抗えませんでした。私は震える指でアプリをインストールし、アカウントを作りました。決して、店で「ペイペイ」と鳴らすためではありません。あくまで、友人からの送金を受け取るため。これは「仕方なく」入れたのです。このプライドだけは守らせてください。

第12章:私の望む未来、あるいは「タッチへの回帰」

QRコード決済が覇権を握ってしまったこの世界。私は今でも、レジで前の人がアプリの起動に手間取っているのを見ると、悲しい気持ちになります。「なぜ、世の中の人はこの『めんどくささ』に気づかないのか?」「タッチ決済をしたことがないのか?」

いろんな「◯◯ペイ」が乱立し、ポイント経済圏に縛られる現状にもうんざりです。私が望む未来はシンプルです。

「タッチ決済だけの世界に戻してほしい」

私が夢見るのは、QRコードが「過去のつなぎの技術」として廃れ、再び「非接触(タッチ)」が覇権を握る未来です。あるいは、もっと進んで「UWB(超広帯域無線)」などの技術により、スマホをポケットから出す必要すらなく、レジの前を通るだけで決済が終わる世界。Amazon Goのような「ウォークスルー決済」が、街中のコンビニやスーパーで当たり前になる世界。

スマホの画面を店員に見せる?カメラでQRコードを読み取る?2030年の人々が振り返った時、「2020年代の人たちは、なんであんな原始的なことをしていたんだ?」と笑われるような歴史であってほしいと、切に願います。

完結編の結び:それでもスマホを握りしめて

3日間にわたってお届けした「電子マネー全史」。ペンギンが空を飛び、ガラケーが財布を飲み込み、そしてQRコードが世界を埋め尽くした20年。

私のこの「タッチ決済へのこだわり」は、もしかしたら老害の繰り言なのかもしれません。でも、便利さを追求することこそがテクノロジーの正義だと信じています。

同居人に「あんた、またチャージ忘れてレジで止まってたでしょ」と怒られながら、私は今日もプリペイド残高を確認します。使いすぎを防ぐためのチャージ式。面倒くささを防ぐためのタッチ決済。この二つが両立する「真の理想郷」を求めて、私の決済放浪の旅はまだまだ続きそうです。

技術者の皆さん。どうか、私たちを「画面操作」という労働から解放してください。そして、チャージ式で使える便利なタッチ決済を、もっと増やしてください。切実にお願いします。

それでは、長大な愚痴にお付き合いいただき、ありがとうございました。今日も元気に、タッチしてきます(残高不足に怯えながら)!

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